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ふりがなをつける「僕は車を走らせることはあっても、新幹線に乗ることがほとんどなかった。東京まで乗ったことはあったが、西に…九州に行ってみたかった。」
Jさん(男性・73歳)は左下肢が不自由で、二本の杖をついて重い脚をひきずるようにゆっくり歩行します。段差はとても辛い。高齢になり、最近は特に外出が困難だと感じています。それでも、地元の身障協会や名身連の役員を歴任し、障害のある人たちのために長年働いてきました。
会社勤めの頃には慰安旅行、その後は身障団体の旅行でバスツアーに参加したことはありましたが、ゆっくりとしか歩けないので、みんなについて行くのがとても大変だったと言います。
会社を定年退職して13年経った平成27年秋、Jさんはようやく、自分の楽しみのためだけの旅をしようと決意して、名身連旅行センターを訪れました。九州まで新幹線に乗るだけでいいと思っていましたが、せっかくなので気のおけない人と二人連れ立って、九州の名湯、別府温泉まで足を延ばしてみることにしました。旅行センターでご要望を伺い、交通や宿のプランを立てました。
「九州は大きい。何もかも壮大です。写真で見るのとは違う。最初で最後と思って出かけたけれど、行ってみて本当に良かった。何でも一回やってみないといけませんね。」
大分県では観光タクシーを頼み、マイペースでゆったりと、九重”夢”大吊橋や湯布院、別府地獄めぐりなどを観光しました。現地で撮った写真を一緒に見せていただきながら、旅の感想を伺っているうちに、だんだんJさんの口もとがほころび、こんな思い出話もして下さいました。
「昭和53年ごろ、友人の自家用車に乗せてもらって九州を一周したことがある。その旅がきっかけで、もう若くなかったが、自動車の免許を取得した。以来、自分でハンドルを握って近くの山々にドライブするようになった。」
普段お話ししているだけでは気づきませんでしたが、Jさんは雄大な風景を求めて自由に動きたいと思っていらっしゃるのです。旅の話をしているときは、遠い地に心をはせ、生き生きとした表情になります。
イラスト協力 ©愛知淑徳大学
今回の旅にも、ちょっとしたトラブルはありました。新幹線の指定席は扉やトイレに近いところに予約したのですが、駅員さんが車両の反対側の乗り口に案内してしまったため、通路をはしからはしまで歩かなければならなかったそうです。それでも座ってしまえば快適で、あっという間に九州に着いてしまって驚いた、とおっしゃっていました。人についていかなければならないツアーと違い、観光タクシーを使って自分のペースでゆっくりなら旅が楽しめる。Jさんはそのことに気づき、自信をもつことができたようです。
(トップページの写真:帰途に就く前に別府駅で撮影。Jさんはこの写真で今回の作品展に応募されています。)